我々が話を聞いたアーティストは全員口を揃えて言っていました。
“ヒリーには犬がいて、そこら中で粗相をしていた”とね(笑)
Randall Miller & Jody Savin
Interview:Ai Anazawa
ニューヨークの今はなき老舗ライヴハウスCBGBが、ヒリー・クリスタルというひとりの男によって“パンクの聖地”となり、ラモーンズやテレヴィジョン、ブロンディ、トーキング・ヘッズといった伝説的バンドを世に輩出するまでの過程を描いた音楽伝記映画「CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所」が、10月23日より劇場公開される。
主演にアラン・リックマンを迎えて2013年に制作された本作が日本で公開されるのは今回が初めて。これを記念して、ランドール・ミラー監督と、脚本・製作を手掛けたジョディ・サヴィン夫妻が待望の来日を果たし、本サイトMOVIE STARの取材に応じてくれた。
ちなみに、ご夫婦にとって今回が初めての来日ということで、監督は、“(本国アメリカにはもう存在しない)タワーレコードが日本にはまだある!”と大喜びしていた。


──まず最初にCBGBが“Country, Bluegrass, and Blues”の頭文字だということを知りませんでした。というか考えたこともなかったです。
ランドール・ミラー:カントリー、ブルーグラス、ブルースのバーをニューヨークに持つのがヒリー・クリスタルの夢だったんですね。ところがそういうバンドは全然ブッキングできなかったという(笑)。
──なぜこの物語を伝えたいと思ったのでしょうか?
ジョディ・サヴィン:1970年代当時のアメリカの若者の多くは、社会から見捨てられ、自分たちの権利が奪われていると感じていました。そんな中、ヒリーは彼らに主張する機会を与え、彼らが集まり、日頃感じていたものから新しいアートを作り出すコミュニティーを提供したんです。そしてそこから新たな音楽が生まれた…これは歴史的に見ても大変珍しい現象だと思ったんです。
──ちなみにヒリーはデッド・ボーイズにかなりの労力とお金を注いでいましたが、彼らに何を見たんでしょうね。
ランドール:ヒリーはラモーンズのマネージャーになりたがった時期もあったんですが、それは叶いませんでした。それに元々ビジネスマンとしての才覚がなく、様々な判断を見誤りましたね。おそらくデッド・ボーイズには、荒削りでユニークで、彼ら独自の主張を見たのでしょう。彼らはエキサイティングで自己破滅的で、まさにパンクだった。なぜ彼らを選んだのかは分かりませんが、彼らのそんなエネルギーが好きだったんでしょうね。

アランが明かしたスティングの思い出エピソード
──映画には、テレヴィジョン、ルー・リード、イギー・ポップ、ブロンディ、トーキング・ヘッズ、パティ・スミス、ラモーンズ、そしてポリスまで登場します。っていうかポリスもあのシーンから出てきたバンドだとは、驚きました。
ランドール:彼らがアメリカで初めてプレイした場所がまさにCGBGだったんですよ。






──その時点で彼らはUKではすでに知られたバンドだったんですか?
ランドール:その存在はまあまあ知られていたようですが、当時はまだ金のないバンドでした。アラン・リックマンがスティング(ポリス)と仲が良く、そのアランから聞いた話なんですが、スティングは初めてCGBGを訪れた際、コーヒーを1杯だけ注文したそうなんです。空になった彼のカップを見たバーテンダーがリフィルを注ごうとしたので、“25セントしか持ち合わせていないから”と断ったところ、バーテンダーが、“ニューヨークでは2杯目はタダだよ”と言ってくれて、スティングはその瞬間、ニューヨークが大好きになったそうです。
──わー、“イングリッシュマン・イン・ニューヨーク”なエピソードですね。それはアランからうかがった話だということですが、本作を作る上で、実際のバンドやアーティストにも取材したのでしょうか?
ジョディ:できる限り取材しましたし、あらゆる書籍を読み漁りました。
ランドール:デッド・ボーイズのチーター・クローム(g.)にいたっては、撮影現場を訪ねてくれました。当時彼にはまだ幼い息子さんがいて、その子が「ハリー・ポッター」の大ファンだったんですよね。(チーターを演じた)ルパート・グリントにも会えて、かなり興奮していました。
ジョディ:チーターは、“お陰で息子にとって俺は偉大になった!”と大喜びでしたね(笑)。“ルパート・グリントが俺を演じているんだから!”って(笑)。
ランドール:チーターは若い頃はそれこそクレイジーなパンク野郎だったのに、「ハリー・ポッター」のルパート・グリントに惚れ惚れしちゃって(笑)。
ライセンス取得の裏話とオリジナル・アイテムを使用したセットデザイン
──劇中では当時の素晴らしい音楽がふんだんに使用されていますが、ライセンス取得は大変でしたか?
ジョディ:ライセンスの取得は毎回大変ですね。
ランドール:ヒリー・クリスタルとCBGBにまつわる物語であることを伝えると、大抵のアーティストはとても熱心にサポートしてくれるんですが、レコード会社側はそうでもなくて。ただラッキーなことに、我々の製作パートナーのブラッド・ローゼンバーガーが長いことワーナー・チャペル・ミュージックで重役をやっていたお陰で、その人脈を活かしてライセンスを獲得してくれました。この作品には映画音楽はなく、当時の曲だけを使っているんです。

──セットはジョージア州に建てたそうですね。
ランドール:ヒリーが破産し、CBGBが閉業した際、店内にあった全てのものを倉庫に保管したんです。我々はそれを全てトラックに積んでスタジオ施設に移動したんですよ。
ジョディ:映画に出てくるバーカウンターは、CBGBにあったバーカウンターなんです。
ランドール:レジもジュークボックスも、壁に貼ってあるものまで。ステージ上にあった18世紀絵画のようなものも全てクラブにあったものなんです。
──それらは今はどこにあるんですか?
ランドール:倉庫に戻しました、ブロンクスだったかブルックリンだったか、そちらのほうにね(笑)。
ニューヨーク・パンク vs. ロンドン・パンク!?
──パンク・シーンは、確かロンドンよりもニューヨークが先だったのですよね。
ランドール:それに関しては諸説ありますね。ニューヨークが発祥と言う人もいれば、ロンドンが発祥だと言う人もいる。
ジョディ:それぞれ個別のムーヴメントでしたしね。ただ、どちらも自発的なものでした。しかし、CBGBは確実にアメリカのパンクの核であり、CBGBがなければニューヨーク・パンクもなかったはずです。パンク・ミュージックをやっている人はもれなく、必ず一度はCBGBでプレイしているはず。本当に多くの人があのクラブでショーをやっているんですよ。
ランドール:うちの近所に有名な不動産業者がいるんですが、彼女はメアリーズ・デニッシュというバンドでCBGBでプレイしたことがあると言うんですよ。でも君は今じゃ不動産業者で全然パンク・ロッカーじゃないじゃないかとね(笑)
──ニューヨークのパンク・シーンは、文学やアートといった文化的要素が非常に強く、物語の中でも同人誌「Punk Magazine」の誕生が重要な要素として描かれていますね。
ランドール:歴史を辿ると、アンディ・ウォーホルやアレン・ギンズバーグといった面々もCBGBに顔を出していて、文化的価値があったことが分かっています。
ジョディ:とはいえ、決しておしゃれな場所なんかじゃなく、あくまでも誰にとっても公平な環境であり、平等主義的な側面を持ち合わせていました。弱肉強食の世界でもありませんでしたね、ヒリーはただ、みんなにそれぞれのアートを試す場所を提供するのが好きだったんです。
スネイプやハンスとは真逆の、アランの穏やかで温かい人柄
──おふたりはこの作品を含む3作品(「プロフェッサー」、「ボトル・ドリーム カリフォルニアワインの奇跡」)でアラン・リックマンを主演に迎えていますが、彼の何に惹かれて起用し続けたのでしょうか?ヒリーの人物像はアランを念頭に描いたのですか?
ランドール:そうです、ヒリーはアランのために描きました。アランは本当に温かみのある、素敵な人でした。「ハリー・ポッター」シリーズ(セブルス・スネイプ役)や「ダイ・ハード」(ハンス・グルーバー役)などではダークな役柄を演じていましたが、本人は全くそうではなく、実に穏やかで温かい人でした。
ジョディ:それにキャストや私たちを親身に支えてくれました。だから、“アランとの次のプロジェクトは何がいいかしら?”っていつも話していたんですよ(笑)。それほど彼は私たちのミューズ的な存在だったんです。この作品を企画した当時、彼はニューヨークとの二拠点生活をしていたので、私もニューヨークへ飛んで、彼にヒリーという人物について説明をしながら一緒に形作っていきました。
──アランはこの企画をすぐに気に入ってくれたんですか?
ジョディ:アランは何事もすぐには気に入らない人でした(笑)。
ランドール:“どうしてこんなものがやりたいというのか僕には理解できない、どうして僕にやれと?僕よりいい役者がいるじゃないか”って(笑)。


──アランの真顔も怖いですが、ヒリーは常に不機嫌そうですよね。これについては彼と話し合ったのでしょうか?
ランドール:ヒリーがどういう人物かはしっかり話し合いました。キャラクターというのは、外見と内面にギャップがある時がいつもおもしろい、そしてそれをどうやって観客に伝えるかというところですね。ヒリーは娘を心から愛していました。しかし絶対に、絶対に、“I love you.”とは口にしない。
ジョディ:アランはヒリーの娘さんやお孫さんといったあらゆる人たちによく話を聞いて、ヒリーの人物像を探っていました。脚本を書いている間、私もヒリーのおじさんやいとこなど親戚の皆さんにお話をうかがって、彼のバックグラウンドなども含めて詳しく知ることができたんです。
──そういえば、ヒリーが赤ちゃんの時のエピソードが冒頭に出てきますね。
ランドール:ベビーベッドから飛び出して、5キロ先のおじさんの家に行ったというのは実話なんですよ!親戚一同、“この子は実に意志の固い子だ”と思ったそうです(笑)。苦労の多い人生でしたが、それでも夢を実現させたわけですから、確かに意志の固い人だったわけですね。

イギー・ポップ役にはテイラー・ホーキンス
──イギー・ポップ役で故テイラー・ホーキンス(フー・ファイターズ)が出てきて驚きました。
ジョディ:彼、素晴らしいでしょう?
ランドール:彼も実にいい男でした。イギー役のために減量までして臨んでくれました。彼もCBGBを愛していましたが、多分プレイしたことはなかったんじゃないかな?
──アイダホ(演:フレディ・ロドリゲス)は物語のために生まれた架空のキャラクターですか?
ジョディ:架空のキャラクターですが、1970年代ニューヨークのバワリー通りにはアイダホのような人たちが大勢いました。
──ヒリーの愛犬ジョナサンもいいキャラでした。
ランドール:我々が話を聞いたアーティストは全員口を揃えて言っていました。“ヒリーには犬がいて、そこら中で粗相をしていた”とね(笑)。■
ストーリー&見どころ
「CBGB ニューヨーク、PUNKが生まれた場所」(10月23日公開)
1970年代ニューヨーク。荒廃したロウアー・イーストサイドの場末にあった小さなバー“CBGB”は、創設者ヒリー・クリスタルが掲げた“オリジナル曲のみ”という異例のルールで、行き場を失っていた若いロックバンドを引き寄せていた――後にロック史を塗り替える面々が集った、パンク/ニュー・ウェイヴの震源地を描いた音楽伝記ドラマ。主人公ヒリーを演じるのは「ハリー・ポッター」シリーズのスネイプ先生役で知られるアラン・リックマン、またCBGBに出演するバンド、デッド・ボーイズのギタリスト、チーター・クローム役には同じく「ハリー・ポッター」シリーズから、ルパート・グリントがあたっている。
監督・脚本:ランドール・ミラー/共同脚本:ジョディ・サヴィン/出演:アラン・リックマン、アシュリー・グリーン、ドナル・ローグ、マリン・アッカーマン、ジャスティン・バーサ、ルパート・グリント、テイラー・ホーキンス
(’13年米/102分/スターキャットアルバトロス・フィルム配給)
公式HP→https://cbgb-film.com/
© 2013 Film CBGB, LLC. All Rights Reserved.

